紙の教科書の継続使用について(令和7年10月15日回答)
御意見
文部科学省では、紙の教科書に代えてデジタル教科書を「正式な教科書」とし、各自治体が紙かデジタルかを選択できる制度の導入を検討しております。2030年度からの導入を視野に、法改正の準備も進められていると報じられております。
しかしながら、デジタル教科書の効果については十分な実証がなされていません。むしろ国内外の研究や調査は、基礎的な読解や集中力の面で紙の教科書の優位性を示しております。
国際的なメタ分析では、紙の方が読解力で有意に優位であることが示されており(Delgadoら, 2018/Clinton, 2019)[1][2]、特に説明文や時間制約下では差が大きくなります。
OECDのPISA調査でも、授業中の過度な端末利用が学力低下と相関していることが報告されています[3]。
低年齢層では、デジタルの情報量や操作の複雑さが認知負荷を高めることが指摘されており[4]、実際にスウェーデン政府は2023年以降、初等段階で紙・手書き中心に回帰する政策転換を行いました[5]。
フィンランドのリーヒマキ市では、集中力低下や短気傾向の拡大を受け、2023年から中学校の外国語や数学の授業で紙の教科書に戻す決定がなされました。保護者の7割、教員の8割が紙を望んだ結果です[6]。
こうした事例は、「教育の基盤は紙であるべき」という世界的な見直しの動きを裏づけています。
教科書は、子どもたちが基礎的・基本的な学力を身につけるための最も重要な教材です。将来を担う子どもたちにとって、安全で確実な学びを保障するためには、紙の教科書の使用を堅持すべきであり、拙速にデジタルへの切り替えを進めるべきではないと考えます。
つきましては、当市の教育委員会におかれても、デジタル教科書を選択せず、紙の教科書を継続使用していただくよう、市長からもご配慮を賜りますようお願い申し上げます。あわせて、三条市において本件に関する議論が行われているのか、また行われている場合にはどのような方向性や意見が出ているのかについて、ご教示いただければ幸いです。
脚注(出典)
[1] Delgado, P. et al. (2018). “Don’t throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media onreading comprehension.” Educational Research Review, 25.
[2] Clinton, V. (2019). “Reading from paper compared to screens: A systematic review and meta-analysis.” Journal of Research in Reading, 42(2).
[3] OECD (2024). Students, digital devices and success. (PISA 2022データ分析報告)。
[4] Furenes, M. I., Kucirkova, N., & Bus, A. G. (2021). “A Meta-Analysis of the Effects of Digital Storybooks on Young Children’s Literacy.” Review of Educational Research, 91(4).
[5] スウェーデン教育庁発表(2023年)、主要国際報道(BBC, Politico, Deutsche Welle 等)。
[6] 読売新聞(2025年3月18日付「フィンランド、紙の教科書復活『歓迎』」)。
回答
現在、国の施策に則り、市内の小学校及び義務教育学校の5・6年生と中学校、義務教育学校後期課程の生徒を対象に、外国語・英語の学習用デジタル教科書を導入しています。さらに、希望する学校には、算数や数学も配布しています。
市では、将来的なデジタル教科書と紙教科書の選択を、国の動向を注視しながら議論を進める方針です。デジタルと紙の二項対立ではなく、それぞれの特性を生かし、子どもたちが活用できることが大切であると考えています。
紙の教科書は、視覚負荷が低く、書き込みが容易で、学習に集中しやすい一方で、持ち運びの際に重く、デジタルに比べて検索性が低いという課題があると考えます。
デジタル教科書は、タブレットPC端末1台で管理でき、文字や写真等の拡大表示やルビ表示、音声読み上げ機能、図形のシミュレーション機能など、教科の特性に応じた活用ができます。一方で、視覚負荷の高さや破損や機器トラブル、集中力低下といった懸念があると考えます。
お問合せは
学校教育課 教育センター 電話0256-45-1116







更新日:2025年10月15日